夢占い

夢占いを調べようと彼女が言った。
それはもう、とてもとても面倒でその上とてつもなくどうでもいいことだったのだが、彼女はその苛立ちなんて視界にも入っていないように楽しそうに笑うのだ。

「夢占いなんておまえ、一番信用できねェ占いだろうが」
「信じないの?」
「てめーは信じるのかよ」

首を傾げて、視線を上向きに飛ばしながら何か考えるように答える。

「んー、……少し、うん、少しだけ」
「少し、だけ?」

嘲笑すると、彼女はむっとする──と思ったのだが意外にもそんなことはなく、情けなくへらりと笑っていた。

「……ギアッチョ、昨日の夢どんなのだった?」
「先におまえの夢から占えよ。そんで、それが当たってそうだったらオレの夢を占ってもいい」
「なにそれ」
「文句があんのかよてめェ、アァ?」
「ないけど」

どうして彼女がこんなに浮かれているのかまったく検討もつかずひたすらに不快だったが、どうやらそれは彼女が小脇に抱えているその辞書みたいに分厚い本が原因らしかった。
夢占いの本らしい。傷みのほとんどない紙質から、買ったばかりの本だと分かる。彼女はこういうものが好きだから、表紙に惹かれて買ってきたのだろう。ファンシーなイラストが描かれた、絶妙に胡散臭い表紙だった。占いと言うとそれだけでやたらに胡散臭い。女はどういうわけかそういうものを好むから、まあ、そういうことなのだろう。良い金蔓だ。残念だな、世の中の女たちよ。

「あのね、子猫と遊ぶ夢を見たの」
「そうかよ。そりゃあ良かったな」
「うん、ねえ、聞いてってば」
「ア?」

睨みつけても平然としている人間は、強気な奴かただの馬鹿か。だからつまりこいつは馬鹿だ。どう見たって完全に馬鹿だ。話す内容はいつも馬鹿馬鹿しいし、馬鹿みたいにへらへら笑って。そう思わなきゃやってられない。こいつの笑顔も話す声も内容も、全部全部馬鹿馬鹿しいと一蹴したい。面倒な奴だと思う。思うのに。

「ちょっと、ちょっと待ってね。えーと、猫の夢……あ、これ」

こちらにも見える角度に本を傾けながら彼女はぺらりとページをめくって、どうやら目当てのページを見つけたらしくその部分を人差し指で指し示した。

「……おまえ」
「愛情を求めている、だって。愛されたいしるしって何? 超笑える」
「…………なんだ、そりゃあ」
「あ、ほら、見て見て。恋愛運上昇だって」

ほら見ろ。女は恋愛恋愛ってそういうことを書いておけばすぐ食いつく。馬鹿馬鹿しい。苛立ちは募るばかりだ。そんなに誰かとくっつきたいのか。好きな男でも居るんだろうか。居たところで、どうにもなりはしないけれど。

「ね、それでギアッチョの夢は?」
「おまえな、話聞いてたのかよ」
「当たってそうだったら教えてくれるんでしょ? 違うの?」
「てめーのレンアイ運が上昇するってのが本当に当たってると思うのかよ」
「当たってる当たってる、だからギアッチョの夢も」

正直なところそれを言いたくないから誤魔化していたのに、彼女は無理矢理に聞き出そうとする。こいつはいつだって話を聞かないから、その上頑固だから、雑に躱しても無駄なのだろう。深い溜息が零れた。

「笑うなよ」
「笑わない」
「じゃあ言うけどよォ」
「うん」
「アレだよ……振られる……っつーかよォ、失恋……する夢」
「……ん」

予想に反して、ナマエはただ平然とページをめくった。笑ったりからかったり、そういったことはまったくなかった。いや、彼女のことだからそれが普通なのだが、なんだか拍子抜けして、またもや溜息をついた。

「……おお、ギアッチョ、良かったじゃない」
「何がだよ」
「ギアッチョの恋愛、うまくいくんだって」

彼女の大好きな占いというやつは、そんなになんでもかんでも恋愛恋愛恋愛なのか。くだらない。やめてくれと、心の底から思った。
占いなんて、どうだっていいはずなのに。期待なんて、するわけもないのに。

「恋愛に対して臆病になってるかもって。でもうまくいくから安心しなよ」
「……ホント、おまえなァ……」

くだらないと思うのに、内心ぎくりとした。いや、ああ、くだらない、くだらない。自分には関係ないことだ。関係ないことに、しておきたい。

「ギアッチョもあたしも、恋愛運いいみたい。良かったね」

そう言って軽く微笑む彼女がなんとも憎らしい。
──オレの恋愛がうまくいくのと同時におまえの恋愛運も上がるって、おまえ、それどういう意味だか分かって言ってんのかよ、なあナマエ。

2015.09.20