04

「あたし本当に、ここに住んで良いんですか」

 ゆめは真顔で、しかし半ば戸惑いを滲ませながらそう言った。嬉しそうな様子ひとつ見せないのが、ディアボロは不思議と気に食わない。

「ああ、オレのそばにいろ」
「うっわぁすごい台詞」
「……お前が居ないと死ぬからだ。他意はない」
「わかってますよ。まあ、そんなに死を嫌がる気持ちはわかりませんけど」
「…………、おまえ、何がそんなに不満なんだ」
「見てわかりませんか」

 分かり切ったことだが、ここにはゆめの存在をあまり良く思わない者が多い。それは偏に「彼女が居るとディアボロが死なないから」というのが原因である。ただただそれに尽きる。ディアボロが彼女に居てほしいと願うのも、また同様の理由であったが。

「ディアボロさんのせいであたし超嫌がられてません? こんなに大量に敵意向けられるの人生初ですよ、嬉しくないですけど」
「耐えろ。オレのためだぞ」
「いや、あたし的にはここを出て行って野宿で生きていっても構わないんですが」
「……死ぬぞ」
「死にますよね」

 彼女がここに住むというのを嫌がるのはもちろん二体の人外が主であったが、吉良吉影もその一人である。
 なにせ、金がない。
 吸血鬼であるDIOと究極生命体であるカーズがディアボロを食してくれさえすれば二人分の食費は浮くので、ディアボロが死んだ後の血を拭ったりといった後始末も今まで耐えてこられた。しかし、しかしである。このよくわからない謎の小娘───しかもそれほど美しくもない手の小娘が、ディアボロを殺せなくしてしまった。非常に腹立たしいことだ。普段ならこんな時ディアボロを殺すことでストレス解消できていたがそれも出来ないと言うのか。困ったものだ。

「……少し、疑問に思ったことがあるんだが」
「何ですか、吉良さん」
「君の能力が『無効化』であるなら、ディアボロが死なないというのはおかしいね。本当にG・E・Rを無効化しているというなら、ディアボロは死を繰り返さずただ死んで終わりということになる」
「……ゴールド……エクスペリエンス、レクイエムでしたっけ。その能力っていうのがどんなものだかよくわからないですけど、そうなんですか? じゃあ『死なない』能力ですかね」

 それはないだろう。いくらスタンドでも、人の死を直接的に操ることは出来ない。人を殺せるスタンドも、『殺す』という能力なのではなく、ただ能力を殺人に使っているというだけのことなのだから。
 しかしそれでは彼女の能力が何なのか、やはりわからない。

「とにかくおまえの能力があればオレは死なないということはわかっているんだ、それ以外のことはどうだっていい」
「そりゃああなたは良いかもしれませんけど」

 せっかく自分に漫画みたいなスゴイ能力が身についたんだから詳しく知りたいじゃあないですか、と彼女は口を尖らせた。その感覚こそむしろディアボロにはわからないものであったが───時を止めてはしゃいでいたというDIOのことを考えればまあそんなようなものなのか、と思う。自分だって能力の素晴らしさに酔っていた経験はあるのに、それを棚に上げながら。

「───運命ではない事象を回避する能力、ってのはどうです」
「……何だそれは」
「寿命とか……事故とか。あなたはそこで死にますって運命で定まっているその死の瞬間までは命が保証されますよってことです。ディアボロさんは元々、そのナントカレクイエムにやられるまでは、別に死ぬ予定じゃあ無かったんですよ、きっと」

 得意気に言ったゆめにディアボロは呆れたような視線をやったが、これ以上面倒にしたくなかった吉良は「ああ、それで良いんじゃあないか」と雑に返した。
 ゆめは嬉しそうに「ですよね」と返事してにっこりと笑う。

「しかし君、スタンドビジョンを見せてはくれないか」
「ビジョン……とは」
「こういうものだよ」

 吉良の背後にキラー・クイーンが現れる。
 ゆめは目を輝かせた。

「それ、えっと、それがスタンドですか」
「ああ。キラー・クイーンだ」
「名前もあるんですね。じゃああたしは……えっと。……待ってくださいあの、スタンドってどうやって出すんですか」

 スタンドの出し方が分からないというのはスタンドに目覚めたばかりのスタンド使いにはよくあることだ。
 スタンドは闘争心などの強い気持ちによって出てくるらしい。吉良がそう教えてやるとゆめはなるほどと頷いたが、しかしどうやってもスタンドが現れることはなかった。

「ビジョンのないスタンド……なのか?」
「ええー……なんだかつまんないですね。でも、名前は決めました」

 ゆめは珍しく満面の笑みを浮かべて、その名を告げた。